一鳴驚人日記

外資系企業でM&A関係の仕事をしている若僧のブログ。キャリアや時事ネタに関してその時々に感じたことを書いていきます。

M&Aのフィナンシャルアドバイザー(FA)って何しているの?~バリュエーション編~

前回に引き続きFAのコアな仕事の一つであるバリュエーション(企業価値評価)について紹介していく。

  1. バリュエーションとは
  2. FAによるバリュエーションの意義

1.バリュエーションとは

いわゆるバリュエーションとは、業界用語で企業価値の評価のことをいう。また、ある特定の企業にたいする評価の水準(例えば株価)と財務数値やその他のKPIなどとの相対関係を指してバリュエーションと呼んだりして、割高/割安な状態を「バリュエーションが高い」、或いは「バリュエーションが低い」と言ったりもする。この企業価値の絶対値の算出と相対的な割安・割高の水準間の分析はFA最重要な役割の一つであり、Financial Adviser(財務アドバイザー)と呼ばれる所以である。


M&AにおいてFAが行うバリュエーション業務では、一般的に対象企業(または事業)の財務データをに基づいて、DCF法や株価倍率法を用いて、対象会社や対象事業の価値を計算する。対象企業が上場会社の場合は株価をベースとした市場株価法で評価することもある。


DCF法や株価倍率法について詳しく知りたい人は、過去にバリュエーションを学ぶ際に読むべき本を紹介したエントリーを書いているのでそちらを参照してほしい。

図解でわかる 企業価値評価のすべて

図解でわかる 企業価値評価のすべて


投資銀行IBやM&A業界内定者が読むべき本 3 ~バリュエーション編~ - 一鳴驚人日記



2. FAによるバリュエーションの意義

いくらで買うべきかを知らずに、M&Aを成功させることはあり得ない。PMI(買収後の経営やビジネスの統合)には通常様々な困難が伴い、短期でシナジーを顕現させることは難しいことも多いが、買収価格が低いほど、その後のPMIの成否に対するバッファーができるのである。高値で買っては、苦労して目いっぱいシナジーを発現させてもリターンは大したことないということになりかねない。


近年はバリュエーションに関する書籍も多く出ているので、クライアント(業界では顧客のことをこう呼ぶ)企業でもバリュエーションについて知っている人が増えた。


それほど難しい数学を用いているわけではないので、教科書通りにやれば素人でもできそうだし、同業を買収対象としている場合などは業界特有の感覚を頼りに自社も大体の値段の検討がつくこともあり、バリュエーションが軽視されることも散見される。


が、知っていることとと使いこなせることは違う。EBITDA倍率が6倍というのは、バリュエーションが高いのか低いのか?WACCが10%というのは高いのか低いのか?


日本の中では高くないが、業種の中では低いということがあるかもしれないし、企業の規模、成長率、利益率、景気に対する感応度、レバレッジ、資産の多寡によってもマルチプルやWACCは変わる。


何十、何百という評価をしているからこそ、業界のマルチプルやWACCの水準感も妥当かどうか判断できるのであり、成長率や利益率と企業価値の相対感がわかるのであり、ビジネスごとのバリュードライバーをはずさいないのである。


教科書通りに計算して出てきた数字が、財務的に割高なのか割安なのかは、結局のところ相場感がないとわからないのである。マンションを買うときに、マンションを買ったことがない人が、いろいろな物件を見ずにポンと数字を出されても、割安かどうか判断できないだろう。


当然ながら、数字に表れてこないビジネス上のメリットや定性的な観点も買収の動機になりうるのでビジネス面のメリットデメリットも考慮する。


そもそもバリュエーションをするうえでは、同業他社の特定が不可欠であり、業界や対象会社のビジネスモデルに対する深い理解が不可欠なので、同業での買収ではクライアント企業からの業界知見も活用する。業界の肌感覚を決して軽視するわけではない。


場合によっては、事業会社でビジネスをしている人の肌感覚と異なる価値が算出されるかもしれないが、その場合はどうしてそうした差異が生じたのかという点を検討することで、より一層当該ビジネスのドライバーやリスクに対する理解も深まる。そこで得たインプリケーションは、PMIやその後の事業戦略策定上も有用である。


バリュエーションでは、シナリオ分析や感度分析が必要になるケースも多いだろうが、そういったシミュレーションをする際の財務モデルの構築にもノウハウやスキルが要求され、ちゃんとしたところに頼めば、シンプルでありながら、柔軟性があり、重要な部分とそうでない部分のメリハリが効いた意思決定に使いやすいモデルが出てくるのである。


シンプルであるがゆえに、「簡単に作れそうだ」という錯角に陥るが、モデルに柔軟性をもたせつつ、容易に理解できるような構造、レイアウトにするのは意外に難しいのである。


素人に自分の専門分野を平易に説明することが、意外に難しいことを想像すれば、感覚的にわかりやすい。学生ならば、他学部の学生に自分の学部の授業を教える場面を想像すればいい。

まとめ

バリュエーションとは企業価値の評価のことであるが、これもFA重要な仕事の一つである。


クライアント企業のビジネス面のインプットと価値に対する肌感覚は重要であるが、財務データとファイナンス理論から得られる価格水準は考慮に値する尺度であり、その相場感は素人にはないものである。


M&Aの成否の大部分は価格にかかっているといっても過言ではない。もちろん、売り手は売れば終わりだが、買い手は買って終わりではなく、その後もうまく経営する必要があるが、価格を間違うとその時点で大きなハンデを背負ってしまう。


だからこそ価格に関するアドバイスは重要であるし、そのためにFAがいるのである。