一鳴驚人日記

外資系企業でM&A関係の仕事をしている若僧のブログ。キャリアや時事ネタに関してその時々に感じたことを書いていきます。

M&Aのプロをただ雇っても、M&Aはうまくいかない

最近訪問したクライアントの話。


クライアントはとあるオーナー企業で、今後の成長戦略の一環として、自社でM&Aをやるために証券会社や銀行から実務にあかるいプロフェッショナルを中途で採用し、M&A担当の役員に据えていた。


しかし、オーナー社長の鶴の一声でなんでも決まっていく社風なので、担当役員にしてみれば自分がいいと思って社長に提案して、万一社長が気に入らないず機嫌を損ねようものなら社内に居場所がなくなる。担当者にしてみれば、わざわざ転職してきて、社長に睨まれてまたどこか他で頑張るところを探すわけにもいかずリスクが取れない。


結果として、証券会社やコンサルタントなどのアドバイザーからの提案がいつまで経っても社長まで伝わらない。M&A戦略を促進するために雇った人材が逆にブレーキをかけることになってしまうという皮肉。アドバイザー側からすると本当にもったいない話だ。


アドバイザーが提案する案件はピンキリで、むしろ自分で探さないといい案件は獲れないという主張もあるだろうが、選択肢は多い方がいいし、自分たちで思いつかないような視点からの提案も時には役に立つので、アドバイザーからの提案がなかなか上まで届かないというのはやはり本末転倒である。


M&Aの実務経験があると人を雇うなということではない。雇ったうえで、その人がリスクをとれる雰囲気や仕組みを出すことが重要なのだ。そして雇う側がどういったM&Aをしたいかという考えをある程度明確にしておく必要がある。いい案件があればやりたいというのでは、担当者も結局どういった案件を上にあげればよいかわからなくて困ってしまう。


結局「いい案件」を言語化できないのであれば(実際経営の現場ではできないこともかなりあるというのが実態だと思うが)、その都度自分で判断するしかないのだ。であれば、中途で採用したM&Aのプロよりも会社に長く勤めていて会社の方向性や社長の考えがよく理解できている人に任せた方がよっぽどいい。