一鳴驚人日記

外資系企業でM&A関係の仕事をしている若僧のブログ。キャリアや時事ネタに関してその時々に感じたことを書いていきます。

【書評】バフェットの財務諸表を読む力 ~投資するためにどこを見ればよいのか~ 

今回は投資の神様ウォーレンバフェットの投資哲学とそれに基づいて財務諸表のどのに注目するべきかを解説した一冊。ただし、これはバフェット本人の著作ではなく、あくまでバフェットをよく知るものがその理解に基づいて書いている。

史上最強の投資家 バフェットの財務諸表を読む力 大不況でも投資で勝ち抜く58のルール

史上最強の投資家 バフェットの財務諸表を読む力 大不況でも投資で勝ち抜く58のルール


バフェットと言えば、小さな繊維会社から事業を始めて今では傘下に保険や鉄道事業をもつ巨大コングロマリットであるBerkshire Hathaway(BRK.B)を作り上げた話はあまりにも有名。同社の時価総額は約4200億米ドルで、単純化のため為替レートを1米ドル=110円とすると約46兆円、日本を代表する大企業であるトヨタ自動車時価総額は約18兆円なので、実にトヨタ自動車の約2.5倍の規模であり、この成功によりバフェットは毎年世界の長者番付の上位にランクインしている。


さて、本書のテーマは長期的競争優位を維持し続ける企業をどのように選別し、評価するのか。
バフェットの投資スタイルは、長期保有である。従って、2, 3年だけ株価が好調では意味がなく、長期にわたって株価が上昇する企業を見つけることが最重要なのである。そのためには、事業において成功し続ける企業を見つけることが不可欠である。以下、本書を読んでなるほどなと思ったこと、ポイントを簡潔に。

損益計算書

選ぶべき企業は、粗利が高く、営業経費がすくない。すなわち、製品やサービスの付加価値が高く、巨額の研究開発や設備投資による競争力維持を必要としない企業が良いということだ。

この前提を是とするならば、製薬企業や資本集約的な製造業は業種レベルで除外されることになる。

利払が少ないという点も挙げられていたが、個人的にこれは本質的ではないと考える。なぜならば、利払いが膨らむほど借入が必要な状況は往々にしてなんらかの経費、研究開発なのか、設備投資なのかはたまた広告宣伝費なのかを巨額に使わなければいけない経営状況・競争環境にあるからだろう。従って、銘柄選択のシグナルとはなっても、根源的な問題はこれではわからない。


あとは、利益が増加トレンドにあるかどうかも要チェック。

結局未来のことはだれにもわからないので、過去の延長線上で未来を推測するしかない。従って直近のトレンドは重要であるということなのだろう。しかしながら、過去成功したからといって将来も成功するとは限らないので、成功した要因が本当に今後も持続可能なのかという点は見極めが必要になるだろうし、それは財務諸表だけではわからないかもしれない。

貸借対照表

Cash is King という言葉があるように、まず一番大事なのは現金が多いこと。しかし、会計を少しでもかじった人にはわかることだが、現金はいろいろな理由で増加するので、その増加の要因にも要注意。資産売却や借入ではなく、事業によって生みだした現金である必要がある。


在庫にばらつきがなく一貫して拡大傾向
景気の波やプロダクトサイクルに業績が影響されにくいことを示している。


売掛回収日数が低いことは顧客に対する優位な取引条件を示しており、競争優位が背景にある可能性が高い。

余談

本書では、総資産利益率が純利益/総資産とされているが、ファイナンス理論上一般的には営業利益や粗利益を使うことが多い。

自己株式のパートで言及されているROEの計算において純資産を減らすことによるROE嵩上げを補正する方法について、個人的には疑問がある。

自己株式を純資産に足して計算する場合分子と平仄が合わないので、ROEが過小に評価されないだろうか。すなわち、自社株買いによって現金を使わなければ、売上成長や負債の返済に現金を使用できたはずであり、分子も増えるはずだ。本書では銘柄選択のの際に有利子負債が少ないことを強調しているので負債返済は考慮する必要がないということかもしれないが。

わたしは10年から15年先の姿が予想可能だと思えるビジネスを探し求めている。中略。インターネットがいかに進歩しようと、人々のガムの噛み方が変わるとは考えにくい

という言葉が引用されているが、イノベーションが叫ばれ、実際にITが生活にも大きな影響を与え、ライフスタイルが変わっていく今日に変わらないものを予想することも実は難しい。

最近アップル株を買い始めたそうだが、15年後もiPhoneが人々に愛用されアップルが変わらずに高収益であることを見据えてのことなのだろうか。