一鳴驚人日記

外資系企業でM&A関係の仕事をしている若僧のブログ。キャリアや時事ネタに関してその時々に感じたことを書いていきます。

投資銀行IBやM&A業界内定者が読むべき本 3 ~バリュエーション編~

内定者や業界初心者向けが読むべき本について、エクセル関連とリサーチ関連を紹介した。

投資銀行IBやM&A業界内定者が読むべき本 1 ~エクセル編~ - 一鳴驚人日記
投資銀行IBやM&A業界内定者が読むべき本 2 ~リサーチ編~ - 一鳴驚人日記


今回は若手にとっての中心的な業務の一つであるバリュエーションに関連する本を以下の通り紹介する。


目次
1.バリュエーションとは何か
2.バリュエーションを学ぶ理由
3.バリュエーションの実務に役立つ本
4.バリュエーションの基礎に役立つ本
5.バリュエーションの理論に役立つ本

1.バリュエーションとは何か

バリュエーションとは、要するに「値段を見極める」ことだ。突然「ソニーの値段はいくら?」と言われるとぴんと来ないかもしれない。中にはソニー時価総額を即答できる人がいるだろう。では、リクナビなどを運営しているリクルートの値段はいくらだろう。リクルートは上場していないので、明確な値段が定まっているわけではない。そこで、リクルートの値段を分析することがバリュエーション業務なのである。

2.バリュエーションが重要な理由

では、なぜ投資銀行M&Aアドバイザリーファームでリクルートの値段を知る必要があるのか。例えば、リンゴを買う場合を考えてほしい。多くの場合、一個100円なら買おうと思うかもしれないが、1個10000円ならば高すぎて買いたいとは思わないだろう。このように値段は何かを買う際に非常に重要な判断材料の一つだ。ところで、M&Aとは、簡単にいえば企業や企業の一部を売買する取引のことであり、取引するためには、リンゴの場合と同じように売買の対象となっている企業やその一部の値段がわかる必要があるのである。


リンゴ売る人も多く、買う人も多く、いつでも取引がされているので、値段は市場の価格でほぼ決まっている。しかし、企業の場合はそうとは限らない。ソニーのように一部の企業は、証券取引所に上場していて、常に取引されている。そのような企業は、時価総額がその値段を示している。しかし、リクルートにように上場していない企業もたくさんある。そのような企業や企業の一部門に関するM&Aを行う場合にはFA(=財務アドバイザー)として投資銀行M&Aアドバイザリーファームが、コーポレートファイナンスと呼ばれる経済学の理論に基づいた財務モデルを作成して、企業の値段である株式価値を計算し、M&Aの取引が成立するように尽力するのである。


FAの中心的な役割は、M&Aにおいてクライアントに損をさせないことであり、買手側ならば如何に安く、売手側ならば如何に高く売るかに関して助言を提供する必要がある。値段は最終的に交渉で決まっていくものだが、どの程度の値段で買うと得で、どの程度であれば損なのかを知るためにも、企業の値段の分析は重要である。逆にこれができないと、残された主だった役割は役割はプロダクトマネジメントと交渉支援となってしまうが、それは弁護士や企業によっては社内リソースでできてしまう。従って、良いアドバイザーはしっかりバリュエーションを行うことができる必要がある。

3.バリュエーションの実務に役立つ本

図解でわかる 企業価値評価のすべて

図解でわかる 企業価値評価のすべて

  • 作者: ?KPMGFAS
  • 出版社/メーカー: 日本実業出版社
  • 発売日: 2011/04/14
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
  • 購入: 1人 クリック: 5回
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本書では、「バリュエーションとは」、その目的・用途、手法、留意点が一通りカバーされており、実務の観点から平易な説明でわかりやすく書かれている。実際に現場で行われているバリュエーション業務の全体像を把握するのに非常に助けになる良書だ。バリュエーションといっても、インカムアプローチ(DCF法など)、マーケットアプローチ(マルチプル法など)、コストアプローチなど様々なアプローチがあるが、本書では丁寧にそして実際に現場でプロフェッショナルが行っている実例も踏まえて解説している。さらに、近年需要が高まっている無形固定資産の評価についても解説されている。ここに書かれていることをそつなくこなすことができるようになれば、若手としては申し分ないだろう。

4.バリュエーションの基礎に役立つ本

あわせて学ぶ 会計&ファイナンス入門講座

あわせて学ぶ 会計&ファイナンス入門講座

冒頭でも触れたとおりバリュエーションはコーポレートファイナンスの理論に基づいている。また、計算に使用する数字は会計数値であり、会計に関する理解も必要となる。本書はバリュエーションに必要となる会計とファイナンスの両方について、実務上最も用いられるバリュエーション手法であるDCF法による企業価値評価にどのようにつながっていくのか書かれている。


黒字でなぜ倒産するのか?
運転資本とはなにか?
ROICとROAは何が違うのか?どうやって使い分けるのか?
ハードルレートとはなにか?


こういったことがうまく説明できない人は是非一読することをお勧めする。また、実務よりもまず理論からという人はこちらを最初に読んでみるのもよいかもしれない。参考図書もとても参考になる。


5.バリュエーションの理論に役立つ本

企業価値評価 第5版 【上】

企業価値評価 第5版 【上】

企業価値評価 第5版 【下】

企業価値評価 第5版 【下】


業界では非常に有名な本であり、業界人であればほとんどの人が読んだことがあるだろう。DCF法のみならずマルチプル法も含めて本書では理論面から解説されている。本書を完璧に理解していれば、バリュエーションの際にロジックや理論面で苦労することはあまりないだろう。上下二巻に分かれているが、下巻では
新興国、高成長企業、周期性のあるビジネスや金融機関などやや特殊なバリュエーションに関しても書かれており、バリュエーションについて詳しく勉強したい人は是非読むとよいだろう。

最後に

今回紹介されいてる本以外にも素晴らしい本は少なくない。好き嫌いや相性もあるので人によっては他にお勧めの本があるかもしれないが、ここで挙げている3冊を読破し、たとえ完全にでなくとも大部分を理解することができれば、初めてのバリュエーション業務に向けてしっかり準備ができていると言えるだろうし、先輩とのやりとりもずいぶん楽になるだろう。もちろん一筋縄ではいかない場合も多いだろうが、入社して忙しくなってからではなく、時間があるうちに読んでおくと、周りの評価も高く睡眠時間もましになることだろう。