一鳴驚人日記

外資系企業でM&A関係の仕事をしている若僧のブログ。キャリアや時事ネタに関してその時々に感じたことを書いていきます。

投資銀行IBやM&A業界内定者が読むべき本 2 ~リサーチ編~

前回はエクセルワークに役立つ本を紹介したが今回は、投資銀行IBやM&Aアドバイザリーファーム(あわせて以下、「M&A業界」)の業務において、リサーチ(調べ物)をする上で役に立つと思われる本を紹介する。(なお、投資銀行では株式調査部を一般的に「リサーチ」と呼称することが多いが、ここでいうリサーチとは関係ないので注意)


M&Aでは非常に多くの情報が必要になる。経済環境や政治状況などのマクロの情報から、業界動向、競争環境、企業情報、経営戦略などの業界情報、会計、税務、コーポレートファイナンスなど財務関連の知識、DDの進め方や交渉の進め方といった実務的なノウハウに加えて会社法、適時開示、独占禁止法、取引事例などのM&Aに必要となる法規制等など、挙げればきりがない。当然全ての案件でこれらの情報が必要になるわけではないのだが、M&A業界で働く以上は多くの案件に携わることになるため、必要に応じてこれらの情報を集める必要があるのだ。


もちろん専門家として財務やM&Aに関する実務上のノウハウ、会社法などのM&Aに関する法規制はすでに詳しく知っている必要があるが、それも法律やルールが改正されたり、新たなプラクティスが確立されることもあるので常に最新の情報を収集する必要がある。ましてや経済環境や業界知識、外国の法規制、過去事例などのケーススタディは、たとえ専門でなくとも高いレベルで理解したクライアントに説明し、意志決定や交渉材料に役立てる必要がある。


そこでリサーチはかなり重要なスキルの一つとなってくる。特に若手は様々な場面でチームや時には自分のためにリサーチをする必要が出てくる。感覚的には若手のうちは業務の10~30%はリサーチだ。当然リサーチのクオリティは自身の評価にも影響してくる。リサーチというものは答えが定まっているわけではないことも多いため、往々にして時間をかければかけるほど、より有益な情報が手に入り成果物のクオリティが高まる可能性があるが、一方で、たくさんの時間を使ってしまうことによる弊害も大きい。他の業務に回す時間か自分の睡眠時間のどちらかが削られてしまうからだ。


そこでどのようにリサーチすればよいのかということに関する本を紹介したい。


情報調査力のプロフェッショナル―ビジネスの質を高める「調べる力」

情報調査力のプロフェッショナル―ビジネスの質を高める「調べる力」



本書はマッキンゼーで情報調査部門のトップを務めた方が書いた本で、戦略コンサル出身だけあって、問題解決を強く意識したリサーチの方法論について書かれている。


本書を進める理由は以下の3点である。

  1. 単なるTips集ではなく、リサーチというタスクの全体像が分かる
  2. 各情報源の特徴と使用目的が整理されていて、ガイドラインとして使用できる
  3. 実際の調査のプロセスを実際に例示していて、実際の状況をイメージしやすい

1. 単なるTips集ではない

どのような時にどのように調べればよいかということの寄せ集めではなく、何が目的であるのか、その目的に照らしてどのようにすればいいのかといった部分を非常に重視して解説している。こういった部分に興味がない人も多いかもしれないが、この部分こそ自分の仕事に対する依頼者の評価やリサーチのタスクの効率性に直接かかわってくる部分であり、ないがしろにはできない。

2. 各情報源の特徴と使用目的が整理されている

情報を入手するには様々なソースがあるが、それぞれどのような目的でどのような状況に応じて使用するのかは、意外に難しい。それは情報の入手が困難な時はもちろんのこと、多くのソースで同じテーマに関する情報が得られる時でも、時間的な制約や情報の質を考慮してより効率的なリサーチを目指すにはそれぞれのソースの特徴をしっかり押さえておく必要がある。本書では用途に合わせたソースの特徴が簡潔にまとまっていて、リサーチをするうえで一つのガイドラインとして使用できる。

3. 実際の調査のプロセスを実際に例示している

本書では、実際に業界調査を行うという設定のストーリーを用いて、実際のプロセス解説している。また、ストーリー中ではやり方の異なる複数の人物が登場するので、それぞれのやり方を比較することを通して、良い点と悪い点とてもわかりやすくなっている。新人の教育係の方が読めば、「こんな新人いるわ~」となるのではないだろうか。

まとめ

M&A業界で仕事をするうえで、リサーチのスキルは欠かせないものである。それはクライアントの期待に応える上でも、自らの成長を促進する上でも当てはまる。本書を読めば、リサーチ業務は完璧ということにはならないが、少なくとも基本はおさえることが可能だ。少なくとも、すごく苦労して調べた成果物を上司に見せたら、「こんなに時間かけて何を調べていたんだ?」ということはなくなるだろう。


情報調査力のプロフェッショナル―ビジネスの質を高める「調べる力」

情報調査力のプロフェッショナル―ビジネスの質を高める「調べる力」