一鳴驚人日記

外資系企業でM&A関係の仕事をしている若僧のブログ。キャリアや時事ネタに関してその時々に感じたことを書いていきます。

投資銀行IBやM&A業界内定者が読むべき本 1 ~エクセル編~

以前投資銀行IBやM&Aアドバイザリーファーム(あわせて以下、「M&A業界」)の内定者向けに入社前に読むべき実務の本を紹介すると書いた。当初は必要な各スキルを一通りカバーすることが可能な本をまとめて紹介することを考えていたが、まず、必要とされる個々のスキルを身につける上で役に立つ本を紹介し、最後に全体をまとめることにする。今回はM&A業界で若手が活躍するあたって不可欠なエクセルでの分析やモデリング(モデル作成のこと、以下総称して「エクセルワーク」)に役立つ本を紹介する。


外資系金融のExcel作成術: 表の見せ方&財務モデルの組み方

外資系金融のExcel作成術: 表の見せ方&財務モデルの組み方


投資銀行にしろ、他のM&Aアドバイザリーファームにしろ入社して1~2年はエクセルワークが仕事の30~50%を占める。誤解を恐れずに言えば、エクセルワークが苦手であることはM&A業界で生き残る上で非常に不利になる。エクセルワークが仕事の大きな部分を占める以上、苦手であれば、それ自体が低評価につながるだけでなく(モモデリングができないと見下されることが往々にしてある)、たとえエクセルワークが苦手であることを差し引いても他に評価されるような資質があるとしても、作業時間が長時間にわたることは帰宅時間が夜中になることを意味しており、自身の疲弊の度合いを高め、翌日の仕事のクオリティを低下させるという点で、エクセルワークが苦手であることは非常に不利である。そこで入社以前に可能であればエクセルワークのイロハをあらかじめ知っておき、できれば多少とも慣れておきたい。


本書は2部に分かれており、1部ではエクセルワークの基本を、2部ではより(財務)モデル作成にフォーカスしている。財務モデルの作成自体は慣れてしまえば決して難しい作業ではないものの、やや専門的な内容となるが、エクセルを使用したデータの管理・分析自体は一般的にどの会社でもひろく行われており、その意味で本書を通して業務の効率化・質の改善を図ることができると思われる。


個人的に本書をお勧めする理由は3つある

1. 内容が業界標準的なものである
2. 現場では説明してくれない部分まで丁寧に説明してくれる
3. 使用頻度の高いやり方や技を使途と結び付けて学ぶことができる

1.内容が業界標準的なものである

本書は、外資投資銀行やPEファンドで働いた著者がその経験を踏まえて書いたものであることもあり、M&A業界では必須となるエクセルワーク有用な知識・スキルがコンパクトにまとめられていて、同業者と話していても評価が良い。


実際資料作成の心構えからショートカットを駆使したエクセルでの作業などは業界では当たり前のことであり、限られた一面ではあるものの投資銀行やPEファンドでどのようなスキルが身につくのかということを本書から垣間見ることができる。本書実務目線で書かれており、実際の作業で役に立つ点が整理されてまとめられている。中には、人に聞くまでもないが、知っていると役に立つ点もあるので、同業者でもエクセルワークが苦手という人には役に立つのではないだろうか。


モデリングという観点から言えば、有名なものでいえばマッキンゼーが出版している「企業価値評価 第5版 【上】企業価値評価 第5版 【下】」などから学ぶこともできるが、あくまでコーポレートファイナンスやバリュエーションという観点から理論面に焦点を当てて書かれたものであり、「モデルを作成する」こと自体に焦点を当てた実務書はそれほどないと思われる。個人的には今後この本がエクセルワークのバイブルとして読み継がれていくのではないかと思っている。

2.現場では説明してくれない部分まで丁寧に説明してくれる

M&A業界では分析資料作成の際にフォーマットが整っていないとすぐにやり直しとなる。経験が浅いうちは、「内容こそが重要なのだから、内容が素晴らしければ、見た目などどうでもいいではないか?」という考えに陥りやすいが、本書ではそういった考えに対する答えも含めて、一つ一つのやり方、目指すものに理由があること、そしてその理由を丁寧にしめしてくれる。


現場ではどうやるのかは必要に応じて教えてくれるが、なぜそうするのかは教えてもらえるとは限らない。理由を説明してもらって納得しないとモチベーションが上がらない性格の人にとっては、非常に分かりやすく、学びやすい本である。また、長いこと業界にいて特に疑問も持たずにそのようにしてきたが、実はそういう理由があったのかという点もあって同業者が読んでも参考になるし、後輩を教育するうえで役に立つかもしれない。

3.使用頻度の高いやり方や技を使途と結び付けて学ぶことができる

エクセルの本は本屋に行くと山ほどあって、ショートカットや関数に詳しくなりたければそういう本を読めばいいのではないかとと思われる人もいるかもしれない。


しかし、そういう本の大部分は機能を羅列した辞書のようなものがあって、そういった「辞書」を通読しても、それぞれの機能をどういった場面で使用するのかよくわからない。実務上でどれが必要でどれが不要なのかがよくわからない。しかし、本書は実務で使用頻度が高いものをまとめており、その意味で費用対効果が良いと言えるだろう。業務経験がある人ならば、日ごろの疑問を「辞書」で解決するもの効率的でありうるが、業務経験が浅い人やこれから業界に入るために少し慣れておきたいと考えるような人にとっては特にそうだろう。

まとめ

もちろん本書を読めばM&A業界で必要なエクセルのスキルがすべて手に入るわけではない。エクセルワークができる人というのは、日々の業務の中で常により効率的な方法を考え、探しているからだ。しかし、本書を通して投資銀行M&A業界でどのようなエクセルスキルが求められるか、そして身につくのかをの一端を垣間見ることはできるし、基礎を養うことはできる。これから業界に入る人は是非これを参考にして、活躍する準備をしてみては如何だろうか。

外資系金融のExcel作成術: 表の見せ方&財務モデルの組み方

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