一鳴驚人日記

外資系企業でM&A関係の仕事をしている若僧のブログ。キャリアや時事ネタに関してその時々に感じたことを書いていきます。

ポジティブなエクイティ・ファイナンス

 

サントリー食品上場で加速する食品M&A合戦|inside Enterprise|ダイヤモンド・オンライン

 

サントリーが上場することによって資金調達を行い、その資金をM&Aなどの成長投資に充てると報道されている。このような積極的・前向きな理由によるエクイティ・ファイナンスは企業にとっても、日本全体にとっても良いことだ。もちろん金融業界・投資銀行業界にとっても。

 

エクイティ・ファイナンスとは、会社の所有権である株式を発行して、その株式の購入対価を資金として得る資金調達手法である。銀行借入(ローン)や社債発行などのデッド・ファイナンスとは、

1)返済義務も期限もない、

2)金利を支払う必要がないという点が異なる。その代わり、株主(株式を購入した人)

は、配当とキャピタルゲイン(売却益)によって高いリターンを要求する。

 

一般に、エクイティ・ファイナンスをすると、既存の株主に帰属する権利や利益が相対的に下がる(一株あたりで希薄化する)ので、株価は下がる。株価が下がると

 

1)会社の値段が相対的に低下するので買収の脅威が増す

2)次に資金が必要になった際に、調達できる金額が限定的になる

 

というデメリットがある。

 

一般に事業会社は、株価下落につながりやすいエクイティ・ファイナンスよりもデッド・ファイナンスを好む傾向があり、日本の場合は特に「レスキュー・ファイナンス」と呼ばれるような、事業が傾きつつあり、リスクが高すぎるために、デッド・ファイナンスが難しくなってしまった最後の手段として、エクイティを出す(例えば、マツダなど)がよく見られる。

 

もちろんそれはそれで必要かつ有効なエクイティ・ファイナンスだ。しかし成長戦略を描いてエクイティストーリーをもってエクイティ・ファイナンスをすることは、企業がより前向きな投資マインドを持っていることの証左である点で、こういった前向きなエクイティ・ファイナンスが増加することは歓迎すべきことだ。日本は国内市場が縮小しているので、なにもしないことは座して死を待つことに他ならない。潰れそうになったら、エクシティ・ファイナンスというのはあまりにもお金の無駄遣いだ。それだったら、リスクを取って成長に投資をする方がはるかに有意義だ。

 

ハイリスク・ハイリターンの新興国ビジネスを拡大するのに、エクシティ・ファイナンスは相性がいい。正直M&Aを成功させることは簡単ではない。新興国ではなおさらだ。事業リスクや為替リスク、統合リスクに加えて、政治リスク・腐敗リスク・インフレリスクなどもある。なので、デッドだけに頼ることは難しい。なぜなら、デッドは返済する義務があるからだ。レバレッジが高くリスクが高いLBOもデッド・ファイナンスが活用されているじゃないかと思う人もいるだろうが、LBOキャッシュ・フローが安定している企業を中心に行われるのであり、だからこそレバレッジが高くても許容されるのだ。

 

日本の国内市場が縮小していくこと、新興国でも競争は激しく事業展開は時間を争うことを考えると、今後も日本の事業会社海外市場を狙ったクロスボーダーM&Aは増加するだろう。そうするとM&A業界に携わる人材も投資銀行や一部のコンサルだけでなく、事業会社の経営企画やM&A関連部署に行くという機会も増え、業界の裾野が広がりそうだ。

 

アドバイザーとして多くの案件に携わって経験を積み、最後は事業会社でオーナーシップをもってM&Aに携わってみるというキャリアがより一般化しそうで、業界人としてはおおいに期待。

 

追記:株式とはなんぞや?と思った人は下記1冊目の本を読むとざっくり感覚がつかめるかず。投資銀行をざっくり理解したい人2冊目をどうぞ。

 

図解 株式市場とM&A (翔泳社・図解シリーズ)

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投資銀行青春白書

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