一鳴驚人日記

外資系企業でM&A関係の仕事をしている若僧のブログ。キャリアや時事ネタに関してその時々に感じたことを書いていきます。

上昇の早さ(物価>賃金)

 

物価の上昇の方が賃金上昇よりも早いのは当然だろう。仕組みとして値段は毎月変えられるが、賃金は通常年に1,2回程度しか改訂されない。また、インセンティブ面でも、経営者にしてみれば、値段を引き上げるのは収入が増えるし、輸入コストを顧客に添加できるし、良いことしか無い。しかし、賃金を上げることは、コストの増加でしかない。

 

もちろん賃金が上昇することで、労働者の所得が増加し、可処分所得の増加を通じて、国内の売上の増加につながるというシナリオを描くことはできる。しかし、それには他の企業も同様に賃金を上昇させる必要があり、各企業が海外の売上進出のための投資に資金を回すのを控え、国内に投資し、人件費を払うという状況が訪れなければならない。

 

たとえそうなることがわかっていたとしても、一番最初に賃金を上げた会社が一番多く金銭的な負担をすることに変わりはない。(ただし、いち早く賃上げをすることによって、優秀な人材を囲い込むことができ、より長期的な競争優位を確立できる可能性は考えられる)したがって、企業はできるだけ、賃上げを遅らせるインセンティブを持つ。

 

しかもこれは可処分所得が増えればすぐに消費者が消費を拡大させる場合の話しである。現実には可処分所得が増加してもすぐに消費は増加しない。中長期的に継続して可処分所得が増加しなければ、将来の不景気などのリスクに備えて貯金してしまう可能性は十分ある。そうすると賃上げが消費拡大に繋がらず、企業は内部留保を減らすだけとなってしまい、投資などの経営の自由度を下げるだけとなってしまう。

 

企業が賃上げをするのは消費が拡大して賃上げによるコスト増を吸収できる場合か、賃上げをしないと優秀な人材が確保できず短期的な一定のコスト増やむなしという状況だけだ。つまり、中長期的に売上が増大することが見込まれている場合のみ賃上げが行われるということだ。(優秀な人材は長期的に、よい経営や研究開発などにより売上増大に貢献すると考えてもよいだろう)

 

従って政府が行うべきは、企業に賃上げをお願いすることではなく、企業が売上を伸ばすことが可能な環境を整えること、すなわち、成長戦略や帰省環境の整備だ。いくら、政府にお願いされようと、楽観的な展望が描けなければ賃上げはできない。むしろするべきでないだろう。政府にお願いされて賃上げが行われたら、それこそ社会主義計画経済と同じになってしうし(それはそれでひとつの経済モデルであるので、それ自体は問題ではないが)、グローバルな資本主義市場で競争している中では、そのようなコストを無視した企業は潰れる危険性すらあると思われる。

 

政府にとっては既得権益と戦って規制環境の改革を行ったり成長戦略を練るよりも、企業に対応を要請するほうが楽だろうが、どちらが本質的な解決策になるのかは今後の経済を左右する大切な判断だ。現在検討されて入るが、今後どのような成長戦略が打ち出されるかが重要だろう。

 

しかし、儲かっている(ようにみえる)大企業に「もっと給料を払え」と言うのは、多くの国民にとっては人気のある行動だろうし、一種の人気取りのためのパフォーマンスなんだろうなぁ、きっと。