先日日経新聞で以下の記事を読んだ。
株式市場揺らした、国債市場の「入札ショック」 :スクランブル・フラッシュ :マーケット :日本経済新聞
その中で、気になった一節があった。前後も含めて以下引用すると。
株式市場固有の要因として気になるのは、進行中の決算発表を受けて業績相場に移行する形で上値を追うモメンタムが、現状では出ていないことだ。ポジティブサプライズで個別株が買われる動きよりは、悪くない決算にもかかわらず売られる動きの方がやや目立つ。
この日もIHIは取引時間中に2015年3月期の営業利益見通しを前期比31%増の700億円に上方修正したものの、市場予想(739億円)に届かなかったことが嫌気され、6%安まで売られた。ミネベアも15年3月期の営業利益見通しを上方修正したが、むしろ利益確定売りが優勢となった。
(太字はブログ筆者による)
ファイナンスを学んだことのある人は、違和感を覚えるのではないだろうか。
ミネベアの例はいいのだが、IHIに関する記述は、あたかも前年比で増益であれば、株価は上がるのが自然だという前提で書かれているように読める。
ファイナンス理論によれば、株価は会社全体の価値である企業価値のうち、株主に帰属する部分の一単位の価値である。(=株数で割ったものである。)
企業価値は(厳密には様々な調整が必要だが、ここでは簡便的に)将来の未来永劫まで続くキャッシュフロー(CF)を現在価値に割戻した(=将来の金額を時間価値及びリスクプレミアムを考慮して現在いくらに相当するか換算した)ものである。
しかし、将来CFを「現在」の時点知ることは不可能であるため、将来CFの予測に基づいて株価が形成されることになる。
また、通常CFの予想値を予測するのは難しく、会社から公表されるのも利益の予想であるので、CFを計算するのに用いる利益指標を目安として株価が形成される。例えば、営業利益や純利益だ。
もちろん、昨年対比で大きく業績が改善している場合で、事業環境やその他業績に重要な影響を与える要因に大きな変化が見られない場合には、将来の業績も引き続き改善するという期待が生まれるということは合理的かつ一般的な考え方ではある。
ただし、それはあくまで将来CFを予想するうえでの材料に過ぎない。一義的に、株価を左右するのは将来予想なのである。
株価は将来を織り込んで、値がついているので、予想よりも決算が悪いということになれば、当然従来の予想が行きすぎだったということになるので、株価は下落する。前年比がいくらというのは関係ないのである。
経済紙の代表格である日経で、理論に合わないことを書いてしまうのは、個人投資家をミスリードしてしまうのではないかと心配になってしまう。もちろん、理論では説明しきれない、経験則から正しいこともあるが、今回はのものはそれとは異なる。
新卒で投資銀行に入社したばかりの時に、マーケット部門に見学に行って、外人トレーダーが、「日経は金融よくわかってないからなぁ」と言っていた。
その時は、日本の経済紙の代表格がまさか!と思ったが、よく見てみると確かにミスリードな記載があるものだ。なので、読者として惑わされないように気をつけたい。