一鳴驚人日記

外資系企業でM&A関係の仕事をしている若僧のブログ。キャリアや時事ネタに関してその時々に感じたことを書いていきます。

20代のキャリアにおけるトリレンマ

先日友人と話しているうちに、仕事の話になった。友人曰く、今の仕事を続けていっていいのか不安だ、と。


今の仕事は、給料が低くはないが友達と比べても高くはないし(筆者注: その友人の周りは外資金融ばかりなので、相対的には低いが日系企業の中では十分高い方だ。)、将来どれくらい伸びしろがあるかもわかってしまっているので、あまり頑張るインセンティブがない。


周りの人は優しく、チームの和を大切にするし、仕事の上でも高いノルマやスキルを要求されないので、プレッシャーは低い。働きやすい。その反面、当然ながら、同僚も先輩も特に高いモチベーションをもっていないし、専門性やスキルを磨くという意欲もない。切磋琢磨できる仲間も憧れる先輩もいない。


仕事は役割を担当している人にとりあえず聞いて、前例をあたって、和を乱さず敵を作らず、「円滑に」目の前の課題を処理していければ良い。


クリエイティブなことは前例のないことと同じなので、調整が大変だし誰もやりたくない。自分が労を厭わずやったとしても、上司も責任を取りたくないのでボツになる。今までのやり方に疑問を感じても、その良し悪しを理解するためにちょっと深い質問をすると、実は誰もよくわかっていないことを発見するところから始まる。


このままい続ければ、それなりのところまで出世は出来るし、給料も悪くないが、ほどほどに良い程度でアップサイドはない。万一、転職する必要が生まれた時に、自分は全く競争力のない人間になっているのではないかと危機感ばかりが募る。


ざっとこんな話だった。

キャリアにおけるトリレンマ

私は大学時代国際経済学を専攻していたのだが、国際経済では「国際金融のトリレンマ」という話がある。よく、両立しないことを「ジレンマ」というが、それの要素が2つから3つになると「トリレンマ」という。近頃がギリシャが大変なことになっていて(最近EUと救済案に合意したようだが)、その原因をちょっと調べていくと出くわすかもしれない、国際経済ではとても有名な単語だ。これをしらいない国際経済専攻はもぐりに違いない。


国際金融のトリレンマ」とは、金融政策の自由と固定相場制と自由な資本移動の3つを同時に実現することはできないという話だ。


詳しい話はwikipediaを読んでもらうとして、同じような話が20代のキャリアにも存在すると思っている。すなわち、


「高所得」と「成長できる仕事環境」と「楽な仕事環境」は同時に実現できない。


「高所得」は、給与・ボーナスは言うまでもなく福利厚生も全て含む、高い報酬を指す。「成長できる仕事環境」は、希少な体験、専門的な知見、高度なスキルなど将来のキャリアにプラスとなるような蓄積が得られる環境のことをいう。そして、「楽な仕事環境」とは、精神的なプレッシャーが少ない、または肉体的に無理をしない働きやすい環境のことをイメージしてほしい。達成目標もなく、失敗しても上司は起こらないし、定時に退社可能というイメージだ。


「成長できる仕事環境と高所得」を選ぶ場合、楽な仕事環境はあきらめることになる。そういう仕事は大抵プレッシャーがきついか、労働時間が非常に長い。要は、結果かコミットメントまたはその両方を求められることになる。ある意味、そのプレッシャーに打ち勝つことで人一倍成長するともいえる。ただし、「きつい」=「成長できる」というわけではないので、仕事がきついことで成長できている実感を得るというのはやめた方がいい。


「成長できて、かつ、楽な仕事環境」で働きたい場合には高所得をあきらめることになる。高所得をあきらめることができれば、周りからのプレッシャーはそれに比例して抑制されるし、求められるコミットメント(=例えば労働時間など)もほどほどなものとなる。しかし、そうした状況でも、専門的な知識を蓄積したり、現場経験を積むといったことはできる。求められるものが、少ない分成長のスピードが緩慢になる可能性はあるものの、目標が明確で自分のペースで頑張りたい人にとってはこのやりかたも悪くない。ただし、スキルや経験が蓄積されてくると、よいサービスを廉価で提供し、報酬が相対的に安く感じられるようになる。これは、未経験の業界でまず中堅あたりで一通り業務を経験して慣れて自信をつけてから、トップ企業に転職して勝負をするという場合を想像してもらえば良いだろう。


成長を諦め、「楽な仕事環境で高所得」を選ぶ場合もあるだろう。大企業の主力ではない部門で、給料は当初社内で横並びなので同期と同じで、他業界と比べると高いが、仕事自体は会社の稼ぎ頭部門ではないので特に忙しくもなく、ノウハウがたまるわけではなく、たまったとしてもニッチ過ぎて異動したり転職したりすると全く役に立たない。そんな仕事をイメージしてもらえばよいだろう。主力部門ではないのでので、責任者や先輩も特に頑張るわけでもなく、とりあえずほどほどに業務をこなして、ルーティーンワークをいつも通りにやってミスが出なけれなそれでオーケー。冒頭の友人は、この最後の場合の「成長できる仕事環境」を諦めている例に該当する。


3つ全てを手に入れようと努力することは重要だが、実際にはトリレンマであり、全てを手に入れることを期待しすぎるのは現実的でない。したがって、3つの要素全てを満たせないことを嘆くのではなく、どれかは諦める必要がある前提で、戦略的にキャリアパスを選んでいくことが大事だと思う。